ぬうん通信

ぬうん通信 vol.10 (2020.7.20.Mon)

【10号記念特別寄稿】『ウンハトオヴを追つて…』(全3回) 文:ふんすけふんふん斎

(ふんすけふんふん斎先生によるエッセイ 『ウンハトオヴを追つて…』全3回完全版はコチラ)

1.とある焼菓子の交わり

 先日、知己よりうまい焼菓子を頂いた。『ホワヰトアヴヱツク』なる洒落た名の付いた焼菓子で、軽妙な口触りと牛乳(ミルク)の柔らかな香りが我が舌を喜ばせてくれた。早速先方に味の所感を述べた所、この菓子は他にも種類があるが、そちらは包装が特殊なのだ、と言うやうな事を言つていた。菓子に蒙昧な私はへえと生返事をしたと思う。閑話休題、今回はこの焼菓子の美味が主眼なのではない。さうではなく、この博覧強記の御仁が、菓子についてとんと疎い私に菓子を渡した事に因つて、互いの域界が交わりを持ち、あたかも橙(だいだい)の実がふつくらとまろみを大きくするやうな、そんな一瞬時を感じたことを書き記しておきたいのである。

 畢竟ずるに、一個の物がうんからうんへと渡る時、或いは一個のうんが此岸から彼岸へと渡る時、そこには常に別種の物同士のまぐわう特殊な空間が開けているのだらう。それは時に知識と知識のまぐわいであり、時に男と女のまぐわいであり、そして窮極的には生と死のまぐわいである。だから私は常々、弟子のうん達や、うんに成る事を志す市井の人々に対し、「渡れ。生きるか死ぬか。生きるか死ぬかだ。」と口角泡を飛ばし教え諭しているのである。

(次回、「獣達は故郷をめざす」へ続く。)

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